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レプトスピラ症〜ネズミが持っている身近な感染症〜

2024年秋に錦糸町に住む犬が2頭この感染症で亡くなったという報告があります。どこで感染したかは不明ですが、恐らく何らかの方法で汚染水に接触したものと推測されます。東京都内に住んでいても生活環境や性格によっては予防をした方がいいかもしれません。また、慢性腎臓病の犬ではレプトスピラが原因の可能性があります。

 

コロラド州立大学が提供する感染症のセミナーを受け感染症の認定医を取得しています。ワクチンやレプトスピラ症に関するご相談がございましたらご来院ください。

 

KeyPoints

 

・レプトスピラ症になると犬が亡くなる可能性がある
 →急性腎障害・肝障害・肺出血など
人や猫にも感染する
・多くの血清型に有効なワクチンがある
アナフィラキシーなどの発症は1%以下
慢性腎臓病の犬から高確率に検出される

 

レプトスピラとは

 

スピロヘータと呼ばれるらせん状の細菌です。
世界中で確認されている人獣共通感染症(Zoonosis)
人・犬・猫の感染源は主に汚染された(レプトスピラの混じった)水です。
皮膚バリアの破綻(ケガをしたところなど)した部位や粘膜(結膜や口腔粘膜)から体内に侵入します。
中性からアルカリ性で0℃~25℃の中で約1週間生存可能です
雨季の後の発生が多いことが知られています。
経口感染が最も多いです。

 

レプトスピラの種類

 

8種類の血清型が知られています。
Hebdomadis(ヘブドマティス)、Australis(オーストラリス)、icterohaemorrhagiae(イクテロへモラジー)、canicola(カニコーラ)、pomona(ポモナ)、hardjo(ハルジョ)、grippotyphosa(グリッポチフォーサ)、autumnalis(オーストラリス)→紫色のものはワクチンに入っています。
終宿主はげっ歯類(ネズミなど)やタヌキです。
流行する型が変化する→日本で現在流行してる型が10年後も流行しているとは限りません。

 

保有宿主

 

タヌキやげっ歯類が持っている分には全く無症状です
排泄物中に菌が存在し犬や人へ感染します。
世界の地域によって保有宿主が異なります。(東京の場合はネズミが多い)
犬や人の体内では共存することができないため発症します。
 →保有宿主と水さえあればどこでも生存可能です。

 

感染経路

 

キズのない粘膜からも体内へ侵入します。
汚染水を飲んでしまった場合にも感染します。

 

保有率

 

ニューヨークのネズミの12%が保有していたというデータがあります。
 →都会でも充分発生する可能性はあります。
 (都会での発生は比較的少ないとされている)

 

好発犬種

 

アメリカでは好奇心の強い犬種(ジャックラッセルテリアやゴールデンレトリーバー)に多いことがわかっています。
アメリカでは大型犬よりも小型犬に多い発生が多いことが報告されています。

 

症状

 

ひとたびレプトスピラ症により重度の腎不全になるとその犬は死亡率が非常に高いです。→”予防が最も重要”
ワクチンで充分予防できることが示されています。
症状発現時にできるだけ速やかに診断することが重要

 

臨床症状

 

食欲消失、嘔吐、下痢、沈鬱(ちんうつ)、脱水→非特異的な初期症状
腎障害による多飲多尿肝障害による黄疸
出血傾向→鼻出血など
の症状 結膜炎・ぶどう膜炎
レプトスピラ性肺出血症候群
*初期は非特異的症状なことが多く診断が難しく、進行してくると重症になり致死的です

 

レプトスピラ性肺出血症候群

 

レプトスピラによる血管炎が原因で起こる肺からの出血です。
これが起こると呼吸が苦しくなってきます。

 

診断

 

血液を用いたPCR検査(遺伝子検査)
尿を用いたPCR検査(遺伝子検査)
抗体検査
→この3つを組み合わせるのが最も確実に診断できます。
ワクチンではPCR陽性にはなりません。
抗体検査で、ワクチン接種歴がないにも関わらず、陽性であればレプトスピラ症と診断できます。

 

治療

 

ドキシサイクリン(抗菌薬)を12時間おき(1日2回)で2週間投与すれば治ります。これは子犬や子猫でも安全に使用できます。

 

不顕性感染

 

感染してもほとんど症状を示さない個体がいて、これを不顕性感染といいます。
慢性腎臓病の犬から高率にレプトスピラが検出されたというデータがあります。慢性腎臓病の犬は検査した方がいいかもしれません。

 

ワクチン

 

20年ほど前まではレプトスピラの入ったワクチンを接種すると400頭に1頭の割合(0.25%)アナフィラキシーを起こしていました。
その他の副反応も含めると10~15%の確率でした。
→現在は他の5種や6種とその確率は変わらないことがわかっています。
つまり、安全なワクチンであることが知られています。
8つの血清型のうち4つまでワクチンが存在します。
この4つを予防しておけば基本的に他の4つも予防できるとされているが絶対に予防できるわけではありません。

 

ガイドライン

 

World Small Animal Veterinary Association (WSAVA) のガイドラインでは室内飼育でも外へ行く場合(ドッグランや公園)へ行く場合はワクチンの接種を推奨しています。最初は2~4週間隔で2回接種し、以後は年に1回の接種で抗体維持が可能です。
抗体は最大15ヶ月持続(個体差がある)

 

ワクチン副反応

 

レプトスピラを含まないワクチン26.3/10000
レプトスピラを含むワクチン53.1/10000
アナフィラキシーのような全身性の症状6.5/10000
かなり安全なワクチンと言えます。

 

人への感染

 

犬が感染しても家族への感染はほとんどないことがわかっています。
人への感染源のほとんどは汚染水への接触によるものです。
ヨーロッパの2014年のデータでは97件人の感染が報告されており、6月〜11月に多く、そのほとんどが汚染水への接触だったとされています。

 

猫への感染

 

猫でもレプトスピラ症は発症します。
ですが、猫はネズミを捕食するが発症が少ないこともわかっています。
これは、猫は元々レプトスピラ症を発症しにくい可能性があります。
猫も発症すると急性腎障害を発症します。
重度の急性腎障害を発症し、他に原因が見当たらないた場合レプトスピラの検査をするべきかもしれません。

 

実例

 

慢性腎臓病と診断した犬の症例のデータを以下に示します。
過去にレプトスピラのワクチンを接種したことがないにも関わらず抗体を持っていました。これはレプトスピラが過去に体内に入りこんだことになります。