
コラム column
猫の特発性膀胱炎
猫の特発性膀胱炎
猫で膀胱炎症状(頻尿、血尿、排尿障害)を繰り返す・治らないことがあればご相談ください。
頻尿:尿が近い・尿の回数が多い症状を指します。
排尿障害:トイレに行っても尿が出ない状態を指します。
排尿アクシデント:トイレではないところで排尿をしてしまうことを指します。
Key Points
・猫の特発性膀胱炎には特効薬はない
・猫の特発性膀胱炎は人の膀胱痛症候群に近い
・診断は下部尿路兆候+除外診断(他の異常がないことの確認)
・長期管理は環境改善+食事/飲水管理+疼痛管理が基本
・再発・難治性ではアミトリプチリンなどを検討
猫の下部尿路疾患(FLUTD:FelineLowerUrinaryTractDisease)
頻尿・排尿障害・血尿・排尿アクシデントの症状が見られます。
この中には以下のものが含まれます。
・特発性膀胱炎 60〜70%
・尿石症10〜20% 膀胱に結石ができた状態です
・細菌性膀胱炎1〜10% 膀胱に細菌が感染した状態です
・腫瘍・神経疾患数%
結晶尿とFLUTD
特発性膀胱炎の猫の58%から尿検査で結晶が確認されたというデータがあります。
また、6才以上の健康な猫の41%で尿結晶が確認されたというデータもあります。
膀胱炎のときには結晶が出やすく、健康な猫でも結晶は確認されることがあるということです。結晶が見られたことで結石に配慮した食事に変更する必要はありません。
原因
はっきりとした原因はわかっていません。以下に挙げるような様々な因子(ファクター)が関与しているのではないかと言われています。
・コルチゾール異常:ストレスを感じたときに出るコルチゾールというホルモンの異常
・膀胱粘膜異常:膀胱の粘膜が弱い
・ストレス反応系異常:ストレスを感じたときの体の反応がうまくいかない
・感覚受容体異常:膀胱粘膜の神経の異常
リスクファクター(危険因子)
オス>メス・純血種・長毛・中齢(2〜7才)・神経質で怖がり:個体の因子
ドライフードが主な食事・飲水が少ない・室内飼育で運動が少ない:環境の因子
人の膀胱炎との比較
間質性膀胱炎(InterstitialCystitis:IC)
膀胱痛症候群(BradderPainSyndrome:BPS)
人の間質性膀胱炎・膀胱痛症候群は”膀胱に関連する慢性の疼痛・圧迫感・不快感があり、尿意亢進や頻尿などの下部尿路症状を伴い、その他の疾患がない状態“と定義されています。
必ずしも炎症があるとも限らず、尿検査で膿(うみ)が認められるのは30%ほどとされています。つまり、70%の患者には膀胱の炎症が見られないということになります。
膀胱鏡検査によりハンナ病変と呼ばれる重度の炎症細胞の浸潤を伴う特徴的なびらん性病変の有無により、ハンナ病変が存在するハンナ型ICと存在しないBPSに分類されます。猫の特発性膀胱炎はBPSに近い病態とされて、炎症が主役ではないと言われています。
尿検査
特発性膀胱炎の猫の尿検査では、赤血球が71%、白血球が19%、結晶尿が48%で見られます。つまり、必ずしも血尿などは見られないということで、異常がないこともあるということです。
診断
症状の確認:頻尿・血尿・排尿障害・排尿アクシデント
超音波検査:膀胱粘膜の腫れの有無・膀胱結石の有無・膀胱腫瘍の有無
尿検査:血尿などの膀胱に炎症があるときの所見の有無の確認
治療
環境改善・食事療法と飲水管理・内科治療の3つの柱で治療していきます。
環境改善
環境を改善することで80%の症例で尿路系の症状が無くなったというデータがあります。
アメリカ家庭医学会(AmericanAcademyofFamilyPhysicians:AAFP)と国際猫医学会(InternationalSoscietyofFelineMedicine:ISFM)が提供する猫の生活環境に関するガイドラインFeline Environmental Needs Guidelineを参考にします。生活環境を改善することでストレスが減りFLUTDを発症・再発しにくくなるということです。
人のIC・BPSにおいても”緊張(ストレス)の緩和“は治療推奨レベルA〜D(Aが一番高い)のうちBに位置付けられています。ストレスは疼痛や尿意切迫感を増強するためストレスの緩和は症状改善に有効と考えられています。
食事療法・飲水管理
FLUTDに配慮した食事を与えると症状の再発頻度を90%減少させたというデータがあります。ドライフードとウェットフードを比較すると、1年間での症状の再発率はそれぞれ61%と11%であったというデータがあります。水分をたくさん摂取した方が再発率が低い傾向にあるということになります。
内科治療(薬物治療)
アミトリプチリン:人では憂鬱な気分の改善に用いられます。”うつ“の治療薬です。人のIC・BPS治療ガイドラインでは推奨レベルBと薬の中では最も高いです。
15頭の猫に12ヶ月投与すると6ヶ月以内に11頭(73%)で症状が消失したというデータがあります。長期投与(3ヶ月以上)の投与で効果が出てくる薬になります。
ガバペンチン:疼痛管理・ストレス緩和の目的で使われます。人のガイドラインでは推奨レベルC1です。
ブプレノルフィン:疼痛管理・ストレス緩和の目的で使われます。
クエン酸:人で尿のpHを高くした方が(ややアルカリ性の尿にした方が)頻尿と疼痛が改善されたというデータがあります。
まとめ
猫の特発性膀胱炎は人のBPSに近い病態と言われています。診断は、頻尿・血尿・排尿障害・排尿アクシデントなどの下部尿路症状の確認、画像検査、尿検査を行います。長期管理では環境改善・食事と飲水管理が基本になります。繰り返す場合には、アミトリプチリンなどの内科治療を検討します。
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