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肝酵素(ALT, AST, ALP, GGT)について

こんにちは。

木場駅・東陽町駅が最寄りの「木場パークサイド動物病院」です。

 

肝酵素(ALT, AST, ALP, GGT)について

 

肝酵素と聞くと肝臓に異常があるときに血液検査での異常となる印象を受けますが、実際には様々な臓器・組織の異常で数値が変化します。
血液は全身を循環していますので、肝酵素の異常が肝臓を含めたどの組織の異常なのかを絞りこんでいく必要があります。
肝酵素の上昇=肝臓の異常とは限らないのです。

 

概要

 

バイオマーカーとして使用するためには、循環している酵素目的としている組織の変化が連動していることが必要です。pH、温度、タンパク質、イオンなどさまざまな要素が関連しているため、正確な測定が必要となります。
クエン酸、EDTAはほぼ全ての酵素活性を阻害するため酵素測定では使用しません。
(*バイオマーカー:ある疾患の有無、病状の変化や治療の効果の判定の指標とな る項目のこと)

 

犬と猫でバイオマーカーとして使用される肝酵素

 

バイオマーカーとして使用される酵素は4つです。
比較的循環血液中安定しており、細胞膜障害(可逆的なもの、不可逆的な細胞死)で増加します。

 

ALT (alanine aminotransferase:アラニンアミノトランスフェラーゼ)
AST (aspartate aminotransferase:アスパルテートアミノトランスフェラーゼ)
ALP (alkaline phosphatase:アルカリフォスファターゼ)
GGT (gamma-glutamyl transferase:ガンマグルタミルトランスフェラーゼ)

 

合成の増加(遺伝子の転写・翻訳)、細胞増殖(腫瘍や胆管などの過形成)、クリアランス減少(尿や便として体外へ排出する能力の減少)なども血中濃度が増加する因子となり得ます。

 

肝酵素によりわかること、わからないこと

 

肝酵素の測定は肝疾患の同定、鑑別、モニターを目的としています。
肝酵素は、細胞内において存在する場所と、肝細胞障害に対する反応により肝細胞漏出性酵素と胆汁うっ滞酵素に分類されます。

 

ALT、AST:肝細胞漏出性酵素(hepatocellular leakage enzymes)

 

主に細胞質に存在し、ASTはミトコンドリアにアイソザイムを持っています。
→細胞内の酵素は最初は静脈側へ漏れ出し全身循環に入ります。
これは漿膜を障害するような肝壊死性炎症に起因します。
(*アイソザイムとは同じ化学反応を手助けするタンパク質で分子構造が異なるものをいいます。)

 

ALP、GGT:胆汁うっ滞酵素(cholestaticenzymes)

 

これらの酵素は胆管側の細胞膜に関連しています。
特にGGTは胆管の異常に関連しています。
胆汁うっ滞、胆汁酸による膜の溶解により放出されます。
肝細胞障害により上昇しますが、どの酵素も肝機能は測定していません
いずれの酵素も肝臓特異的なものではなくアイソザイムが存在するため、肝疾患を特定できるものではありません

 

肝臓に病変がないにも関わらず上昇することが起こり得ます。
血清中の酵素活性は病理学的プロセスを示唆するもので、特定の疾患を示唆するものではありません
そのため、肝酵素の解釈は臨床症状、経過、投薬歴、身体検査、肝毒性物質への曝露、感染源への接触、基礎疾患などを考慮しながら行います。一連の肝酵素のモニタリングで疾患の経過を見ることができます。

 

上昇(急性or慢性)
安定性(増加傾向、減少傾向、微増傾向、慚減傾向)
パターン(胆汁うっ滞性、壊死性肝炎性、誘導性)

 

例)
肝毒性物質への曝露による急性肝障害に伴う上昇後はすぐに参考基準内に戻る
慢性or進行性壊死性肝疾患では明らかな増加傾向(もしくは微増、慚減)が見られる
参考基準値以下の肝酵素値には診断的意義はありません。

 

肝細胞漏出性酵素:ALT・AST

 

概要
ALTとASTは静脈側に位置する肝細胞により吸着性細胞内に取り込まれて除去されます。重度の肝疾患、静脈の低灌流(虚血、門脈血管異常)除去率変化を与える要因となり得ます。上昇は特に肝細胞壊死で見られ、肝障害後24から48時間の間に上昇します。上昇と肝細胞障害を受けた数の間には関連があります。しかし肝酵素の上昇だけでは予後の予測はできないため、酵素活性、コレステロール、アルブミン、ビリルビン、凝固検査などの他の項目もモニターする必要があります。
例)
急性肝疾患では2~3日で低下し始め、2~3週間かけて正常値に戻ります。
慢性肝疾患では微増と慚減が見られます。
肝臓疾患を持つ動物における低下は疾患の改善か肝細胞の減少どちらかによるものです。

 

ALT(Alanineaminotranserase)
肝臓だけでなく、心臓、腎、骨格筋にも存在し、二種類のアイソザイムがあります。ALT1は肝・骨格筋に、ALT2は骨格筋に存在します。半減期犬で40~60時間(2~3日)、猫で3~4時間です。空胞性肝障害、門脈血管異常、うっ血性肝障害(右心不全)で軽度から中程度の上昇が見られます。
犬ではグルココルチコイドで転写の亢進が起こります。猫では溶血による二次的上昇、甲状腺機能亢進症、ジストロフィン機能不全による横紋筋融解症でも上昇します。
犬の筋ジストロフィーでは様々な程度のALTの上昇が見られます。

 

感度
犬:肝細胞壊死、肝不全(80-100%)肝炎、肝硬変、空胞性肝障害、うっ血性肝障害、門脈血管異常(45-80%)
猫:肝外胆管閉塞、胆管炎、胆管肝炎(80-100%)
ALTの上昇から肝疾患のタイプの鑑別はできませんが、壊死性肝炎で最も大きい上昇が見られます。
急性壊死性炎症性肝障害の原因:薬剤摂取、肝毒性物質摂取、感染、炎症性疾患(レプトスピラ、トキソプラズマ、銅関連性肝炎、自己免疫性疾患)

 

AST(Aspartateaminotransferase)
骨格筋、心筋、腎臓に最も多く存在しますが、脳、小腸、脾臓、肝臓、赤血球にも存在しています。
ASTとCK(クレアチニンキナーゼ)同時に上昇している場合は骨格筋由来の可能性が高いですが、慢性の場合、CKの半減期が短いため鑑別ができません。ASTは肝細胞において、80%は細胞質、20%はミトコンドリアに存在するため、細胞質内のASTが重要です。
半減期は犬で22時間、猫で77分です。
可溶性細胞内酵素としてASTはALT活性を反映しており基本的に同調していますが、ASTの方が分子量が小さく、半減期が短いためASTの方が早く低下傾向となります。猫では肝細胞壊死、胆管肝炎、骨髄増殖性疾患、慢性リンパ腫、慢性胆管閉塞などに伴う肝細胞障害への感度が高いです。

 

肝細胞漏出性酵素:ALP・GGT

 

ALP(alkalinephosphatase)
腎髄質、胎盤、腸、骨、肝に存在しており、腸(intestinal)と組織非特異性(肝、骨、腎、胎盤など)の2つのアイソザイムが存在します。
犬ではグルココルチコイド誘発性ALP=G-ALPがあり、肝細胞、胆管上皮で作られ、投与後10日ほどで遺伝子転写が始まり、治療継続すると上がり続けます

 

LiverALP(肝ALP)もグルココルチコイドにより誘導されます。
G-ALPは感染、慢性疾患(おそらく内分泌性グルココルチコイド上昇に対し二次的に上昇)、抗痙攣薬にも関連しています。
半減期は犬でL-ALP,G-ALP2~3日、胎盤、腎、腸のALP6分、猫でL-ALP6時間、腸ALP2分です。

 

Bone-ALP(B-ALP)は生後7ヶ月までの成長期の犬猫に存在します。その他のB-ALPの上昇理由は、腎性二次性上皮小体機能亢進症、骨腫瘍(骨肉腫における負の予後因子)、骨髄炎、乳腺腫瘍、猫の甲状腺機能亢進症(T3、T4による骨芽細胞刺激)があります。
ALP上昇の肝疾患に対する感度は高いですが、特異度は低く、ALP上昇に伴いGGTの上昇も認められたら肝疾患による上昇である可能性が高いと考えられます。

 

犬では肝細胞壊死、胆汁うっ滞性疾患、原発性or転移性腫瘍で上昇しますが、うっ滞が肝内か肝外か鑑別することはでき
ません。空胞性肝障害で軽度から中程度の上昇が見られます。
スコティッシュテリアは高G-ALP傾向が見られます。胆汁うっ滞(進行性の空胞性肝障害、副腎不全、肝細胞がんによる)に関連したものです。

 

猫ではより特異性は低いですが臨床的意義はあり、肝リピドーシスで重要(他の肝酵素より上がりやすい)です。
うっ滞、胆管過形成による肝性or肝外性胆管損傷で上昇します。
GGT(gamma-glutamyltransferase)

 

腎臓、膵臓、胆管上皮、肝細胞(zone1門脈周囲)、腸、脾臓、心、肺、骨格筋、赤血球の細胞膜に存在します。
犬では腎臓近位尿細管と膵臓に最も高濃度に存在します。フェノバルビタール投与で軽度上昇し、肝毒性が発現するとさらに上昇します。
酸化ストレスを受けたときにもGGTの発現が上昇します。GGTは胆汁うっ滞性肝酵素で、胆汁酸による細胞膜の溶解により上昇します。
犬において肝疾患に対する感度は高くはない(40%)が、ALPより特異度は高いです。

 

猫においては肝疾患に対する感度はALPより上回り、GGTは壊死炎症性疾患(門脈、胆管、膵臓)でよく上昇します。
肝細胞壊死(zone2-3)ではほとんど上がらず、肝外胆汁うっ滞では中程度から重度の上昇が見られ、特に犬では猫より上昇しやすいです。

 

要約

 

肝酵素の異常はビリルビン、pre/post総胆汁酸、動脈血アンモニア、凝固因子をともに解釈し次のアプローチを決定する必要があります。
画像検査(胸腹部レントゲン、腹部超音波検査)は肝外の疾患の描出に役立ちます。

 

急性肝疾患の一般的な要因

 

犬伝染性肝炎
レプトスピラ症他26の感染症
腫瘍
銅蓄積性疾患
薬剤誘発性:40種類以上の薬剤
環境毒:キシリトールなどの7~8種類

 

慢性肝炎の原因

 

銅:遺伝的な銅排泄能の欠乏、食餌中の銅含有量多い
免疫介在性
感染性:リーシュマニア、ヒストプラズマ、マイコバクテリウム、レプトスピラ症、ネオスポラ、トキソプラズマ、サルコシスティス、バルトネラ、ヘリコバクター、エールリヒア
薬剤:フェノバルビタールなど
環境毒
空胞性肝疾患:一次性、二次性

 

肝酵素の上昇を確認した時には、「なぜ上昇しているのか」・「どこから出ているものなのか」・「どのような経過をたどっていくのか」を考えて検査計画・治療計画を立てます。
原因の究明が難しいこともあり、原因が一つではないこともあります。
原因不明の肝酵素の上昇や、治療しているのにもかかわらず数値が改善しないなどあればぜひ一度ご相談ください。