コラム column
犬の糖尿病(Diabetes Melitus: DM)について
こんにちは。
木場駅・東陽町駅が最寄りの「木場パークサイド動物病院」です。
イントロダクション
DMはインスリンの不十分な分泌 or インスリンの不十分な作用 or それらの両方 により高血糖 ( 血糖値が高い状態 ) が引き起こされます。
→ この高血糖は様々な原因によって引き起こされます。
一般的などうぶつ病院では0.3% の犬が発症し、年間0.13%の犬が発症する という報告があります。
分類と疫学
ヒト: 2つのタイプが存在します。
・完全な永久的インスリンの欠乏:幼児発症が多い
・永久的でないインンスリンの抵抗性:成人発症が多い
→幼児発症: インスリン依存性糖尿病 (Insulin Dependent DM: IDDM)
成人発症: インスリン非依存性糖尿病 (non-Insulin Dependent DM: NIDDM)
→IDDM: Type 1 DM (10%くらい)
NIDDM: Type 2 DM (90%くらい)
現在ではこのType 1・Type 2という分類が主流になっています。
犬の糖尿病はヒトのType 1に近いです
→永久的なインスリンの欠乏により、インスリンの分泌を刺激する物質を投与 しても血液中のインスリンの濃度は増加しません。
=自分でインスリンを作ることができなくなってしまっています
血糖値のコントロールとケトアシドーシスを回避するために永久的 ( 生涯にわたって)にインスリンの投与が必要になります。
病理組織学と原因となりうる要因
DMのイヌの膵臓では以下のような変化が起こっています。
・サイズの減少
・膵島(インスリンを作る細胞の塊)の減少
・膵島内のβ細胞 ( インスリンを作る細胞 ) の減少
・β細胞の空砲化、膨大、変性
β細胞の機能不全の原因はよくわかっていません。
イヌにおいて家系的に ( 遺伝的に ) DMになりやすいことがあります。
ヒトではいくつかの遺伝子がDFになりやすい要因としてわかっていてイヌでも いくつかそういったものがわかっています。
アメリカの糖尿病学会ではヒトのType 1をType1A (免疫介在性)とType1B(特発性) に分け ることを提唱しています。
膵外分泌疾患
DMは膵外分泌疾患に2次的に引き起こされることがあります
→ 最も多いのは膵炎で、これはヒトでも同じです
膵炎はDMや糖尿病性ケトアシドーシスに関与していると考えられています。 膵外分泌に関連する様々な膵臓の炎症がβ細胞の活動に影響します。
インスリン抵抗性DM
プロジェステロン:
発情休止期や妊娠期にプロジェステロン ( Pg ) が分泌 されます。その抗インスリン作用によりDMを発症する ことがあります。Pgは乳腺からの成長ホルモン(Grouwth Hormone: GH)の分泌を促し、これにも抗インスリン作用があります。PgとGHの抗インスリン作用によりDMを発症することがあると考えられています。
このメカニズムによりDMを発症した場合、速やかに(子宮) 卵巣摘出術を実施することにより、インスリン分泌能が充分残っていればDMは治る可能性があります。
この状態を 長い時間放っておくとβ細胞が消失して永久的にインスリン 投与が必要になることになります。
グルココルチコイド:
インスリン抵抗性とインスリン分泌を減少させる作用があります。DMのイヌの10%が高グルココルチ コイド血症 ( クッシング症候群 ) と診断されました。
38%のクッシング症候群のイヌが血糖値が中等度の高血糖だったという報告があります。この高血糖の状態が維持されると膵島にダメージを与えDMを発症しえます。高コルチコイド血症のイヌが膵臓へダメージを与えるということではないので全ての高コルチコイド血症のイヌがDMを発症するわけではないことの説明がつきます。
肥満:
イヌの肥満の割合は増加傾向にあるが、ヒトやネコで見られるような インスリン抵抗性がβ細胞の機能不全をマスクしてType 2のDMになる という証拠は今のところありません。肥満のイヌはインスリン抵抗性を示しますが代償性にインスリン分泌量を増やしていることがわかって います。
ハネムーン・ピリオド( Honeymonn Period ) :
DMと診断されたいくらかのイヌに見られる現象です。
わずかな量のインスリンの投与によく反応する時期で、これは残って いるβ細胞の機能によるものと思われまする。次第にそのインスリンの 用量では血糖値のコントロールが難しくなり、数ヶ月以内に インスリンの容量を増加する必要が出てきます。
病態生理学
インスリン欠乏が起こると・・・
・組織のグルコース利用能が低下、アミノ酸や脂肪酸の利用能も低下
・肝臓における糖新生の増加
・循環血液中のグルコースの増加
→これらのメカニズムにより高血糖を発症します。
( 腸管のグルコース吸収能、赤血球・腎臓・脳のグルコース利用 脳は変化しません )
血糖値が180~220mg/dLを超えると尿糖が出現します。
→ 浸透圧利尿により多飲が生じます + 水の喪失 + 枯渇中枢の活性化
→ 多飲多尿 ( Polyurea / Polydispsia : PU/PD )
血糖利用能の低下による負のカロリーバランス + 尿へのカロリー喪失 + 組織の異化 ( 脂肪や筋肉をエネルギーとして使おうとする反応 )
→ 多食 ( 身体がエネルギーが不足していると勘違いしている状態 ) こうしてDMによく見られる多飲・多尿・多食が発症します。
DMの病態は飢餓状態に似ています。
タンパク質の代謝は産生から分解へシフトし、アミノ酸が増えると肝臓の 糖新生を増加させます。
→ 高血糖悪化 + 負の窒素バランス
+ 筋肉量の減少 ( 体が栄養として筋肉を分解し始める )
→ 悪液質の発症
インスリン欠乏による細胞内への糖の流入阻害
→ 脂質異化亢進 → 中性脂肪の参入 → 脂肪酸の増加
→ 余剰アセチルCoA はケトン体に代謝されます。
※ ケトン体は一時的なエネルギー源としては有用ですが、この状態が 長期間続くと糖尿病性ケトアシドーシス ( Diabetic Ketoacidosis: DKA →ケトン体により血液が酸性に傾いた状態 ) を発症しこの 状態は危険です。
疫学
5~12才での発症が多く、7~10才がそのピークと報告されています。 オスに比べてメスの方が高リスクと報告されています。
身体検査所見
白内障が一般的に見られます。
神経学的異常はネコでは一般的だがイヌではあまり見られません。
診断
・( 他の原因が見当たらない ) よく見る臨床症状 (多飲多尿など ) + 絶食時の高血糖 ( > 200mg / dL)
+ 数日間連続で測定しても高血糖が続いている or 糖化タンパク (フルクトサミン ) ( + 尿糖 )
→ これらの結果が揃うとDMと診断されます。
・尿ケトンの存在 → Diabetic Ketosis: DKと診断
・一般状態が悪い+尿ケトン+ 代謝性アシドーシス ( アニオンギャップの増加) → DKAと診断
診断的評価
DMと診断したら、それに関わりうる or 基礎疾患となりうるものを探します。
クッシング症候群、甲状腺機能低下症、膵炎 → 関わりうるもの(Contributor) 体重減少、尿路感染 → DMの結果のもの(Resulting from DM)
CBC ( Complete Blood Count )、血液生化学検査、フルクトサミン、尿検査、 尿培養、未避妊のメスの場合はプロジェステロンの測定、 腹部超音波検査 ( 膵炎・副腎腫大の有無・子宮蓄膿症・卵巣嚢腫 ectの探索 ) これらがあるとインスリンが効きにくかったり他の症状が出てきて最悪の場合 命に関わることもあります。
Successful Management Strategies ( 治療戦略 )
Initial Plan and Therapeautic Goals ( 初期計画と治療目標 )
The team approach: チームでの取り組み
オーナーのコンプライアンス+オーナー and 獣医師のチーム形成が大切
オーナーの教育が重要とされています。
→ 正しく、十分な量の情報を提供することでDMに対する理解が深まり治療がしやすくなります。
ヒトの治療との違いと治療のゴールの設定
一般的なオーナーの心配を理解し応えることが重要です。
マネージメントの成功とは何かを理解・共有し同意を得ます。 獣医師にとってのゴールは患者が健全に暮らせることです。
:多尿がなくなる or かなり減る、体重が安定している、多食が許容範囲
オーナーの生活の質に負の影響を与えるもの
・DMに対する一般的な心配 → あまりよくないイメージを持っている
・家族や友人に預けて行くこと → 他の人では治療は難しいと思っている
・失明することへの不安 → 白内障の進行に対する不安
・低血糖への心配
・生活の変化 (社会人としての生活、仕事への影響)
・コスト
・もっとよくコントロールしたいと思うこと etc
正しい情報と理解によってこれらの多くは解決できます。
インスリンをいつ始めるかと低血糖の回避
一旦DMと診断したら速やかに治療を開始します。
食欲に問題ない場合:uncomplicated diabetes
→ ケトン体があっても問題ありません。 インスリンの投与を開始で減少します
治療のゴール:臨床症状の減少 or 消失
短期的問題の回避:低血糖・DKA
前記の臨床的改善
良い生活の質
→ インスリン治療、適切な食事、運動、炎症・腫瘍・感染症・内分泌疾患のコントロール、 インスリン抵抗性薬剤の回避
正常〜ほぼ正常の血糖値は推奨されていません ( 治療の目標ではない )
→ 血糖値が80~250md/dL で維持・推移していれば多くのイヌは元気に過ごせます。
オーナーの教育時に用いるアイテム
一般的な概念 ( General concepts )
飲水量の変化、尿量、食欲、体重 → オーナーの方が気にするべき項目です 注射のタイミング、食事、食事のタイプと量、運動 → これらを一定にする ことが重要です。
多くのDMのイヌが12~18ヶ月で白内障により失明します。
インスリン
冷蔵して正しく混合する必要があります。
適切なシリンジを使います。
適切な注射法を知ることは重要です。
食事に関する推奨事項
目標と一般的組成 ( Goals and General Content )
食事:おいしい、栄養学的に理想的、組成が一定、素材が一定、カロリーが一定 理想体型にしてそれを維持することが良いとされています。
→ インスリン治療中のイヌは太りやすく、これがDMのコントロールを難しくすることがあります。
食後高血糖を避けるために単糖を多く含まない食事にするといいです。食事中の脂質の量は最小限にした方がいいです。
食物繊維:いくつかの報告では食物繊維がDMのコントロールをしやすいという ものがあります。食事変更する場合は少しずつやるといいです。
食事回数:12時間毎の同量の食事が理想
食欲が良好の場合、食事の直前にインスリン注射をしても良いです 食欲が安定しない場合、インスリン注射の前に食事をする方がいいです。
運動:一定の運動はDMのコントロールをしやすくします。
運動は血糖値を下げます。
←・注射部位からのインスリン吸収を増加
・運動に用いている筋肉の血流量を増やしインスリン運搬をよくする
・グルコーストランスポーターの変更を刺激する
一時的なストレスの強い運動は避けましょう。
→ 低血糖の原因になることがあります。
インスリンの選択 ( Insuline Choices )
概要
中間型インスリン:Porcine Lente、NPH
長期型インスリン:Protamine Zinc Insuline, Insuline Glargine, Insuline Detemir
プロジンク:長期作用型 中間型インスリンが不十分な場合に使用を検討
グラルギンとデテミルは長期作用型で糖尿病のヒトの基礎インスリンを 維持するために作られました。
→ ヒトでの使用が増えてきているタイプです。
インスリン類似体 ( Insuline Analogue )
グラルギン:イヌやネコのDMのコントロールに一般的に用いられます。
ランタス:ヒトのインスリンペプチドを合成したものです。 これは注射部位からゆっくり吸収される設計になっています。
→ 比較的コンスタントでピークのないインスリンの基本的供給源 ( Basal Supply ) になります。
デテミルよりも長時間作用することがわかっています。第一選択 ( First Choice ) にしている専門医も多いです。
初期は0.5 U/kg 1日1回にします。
54%のイヌでこの頻度で維持できたという報告があります。
最終的に1.9U/kg ( 平均 0.2~5.2 ) でコントロールできました。 残りの46%は1日2回に設定されました。
12時間毎にするのは24時間血糖値がコントロールできていないと判断した時になります。
24時間毎を12時間毎に変更する場合は一回投与量を30%減らします。
デテミル:ヒトではアルブミンから離れゆっくり吸収され代謝効果を24時間まで伸ばせることがわかっています。
イヌのDMでは12時間毎に使用されます。その安定性から低容量からスタートで良いとされています。0.1 U/kg 12時間毎からスタートします。
特に小さいイヌでは注意が必要です(効きすぎることがあります)。 これ用に作られた希釈液もあります。
インスリンの保存・混和・希釈
凍結や加温はインスリンを無効にします。
室温保存でも大丈夫ですが冷蔵庫の扉に入れておくことを推奨します。月に1回新しいものへ変更を推奨する専門家もいますが一般的にもっと長い期間 安定して保存できることがわかっています。
振って混ぜることよりもゆっくり混和することを勧める方もいらっしゃいますがこの混ぜ方に対しても安定であることがわかっています。
→ ただ、一般的にはゆっくり混ぜることを推奨されている
希釈する場合は専用のものを用いるべき
→ グラルギンはpH依存性の高いもので希釈するべきではない
インスリンペン
ヒトでは注射後10秒間待つことが推奨されています。
→ どうぶつでは低容量なので数秒〜5秒間で充分とされています。
針の太さは29G~32Gで長さは4mm~12.7mmまであります。
→ どうぶつでは比較的長いものが皮内注射を避けるために推奨されます。
初期投与の推奨
0.25u/kg 1日2回からスタートするのが推奨されます。
→ 最初の数日は、もし血糖値が高くても容量を増やすべきではありません。これは数日でインスリンの効きがよくなるからです。
:平衡状態に達することになります ( equilibrium )
最初は通院で治療スタートするのが良いとされています。
発情期のメスの場合
DMと診断されてた未避妊のメスは速やかに避妊手術をするべきとされています。プロジェステロン ( Pg ) の影響でインスリン抵抗性があるからです。
→ 一部のメスでは避妊手術をすることによりこの影響がなくなりDMが治ることもあります。
発情期とは無関係の時期にDMと診断されたメスも避妊手術をするべきである → 発情の度に分泌されるPgと乳腺からの成長ホルモン ( Growth Hormone ) の 影響をなくすことができます。
併発疾患 ( Concurrent Conditinons )
炎症・感染・腫瘍・代謝性疾患:新たにDMと診断されたイヌによく見られます。
インスリン抵抗性 中等度なもの:肥満など
重度なもの:クッシング症候群
変動する要因:膵炎の再発
→ これらを見つけ出してコントロールすることでDMの管理がしやすくなります。
いくつかの病態 ( 慢性膵炎など ) は治癒することはなく長期管理が必要です。
→ “ DMの管理が難しいことがあり ( 同時に存在する病態のため ) これらをコントロールすることでDMの管理がしやすくなることがある “
DMのモニター
オーナーの観察による状況の報告 + 定期的な病院での検査
:DMの長期管理に必要
定期検査:体重・身体検査・血糖値・フルクトサミン
最初に病院で血糖曲線を作成したあとは多くのオーナーが自宅で ポータブルタイプのものを用いて血糖値のモニターが可能です。 :Freestyle Libre, PBGM ( Portable Blood Glucose Monitor )
定期検診の頻度
1~2ヶ月に1回のモニターが長期的な管理の成功には大切
初期:DMと診断後1・2~3・3~4・8~10週で来院
→ 4ヶ月に1回程度 ( あるいは必要に応じて )
経過の管理と身体検査の繰り返し
血糖値コントロールの最も重要なパラメーターはオーナーの見解です。
:多飲・多尿・多食の状況、体重、一般状態
体重は特に重要
:インスリンの不足 → 体重減少 インスリン過多→体重増加
よくコントロールされたDMでは体重は安定し理想体型に近くなっています。 フルクトサミン濃度・血糖曲線
:問題の検出に有用なことがあります。
治療のガイドの変更にも用います。
追加検査の必要性の検出もできます。
フルクトサミンと糖化ヘモグロビン ( HbA1c )
背景 ( Back Ground )
フルクトサミンと糖化ヘモグロビンはいずれも糖化タンパクです。
血清中タンパクへの糖の不可逆的な結合 or ヘモグロビンへの糖の不可逆的結合 によって作られます。
フルクトサミン:過去1~2 ( 2~3 ) 週間の血糖値の平均を反映しています。
HbA1c:過去2~3 ( 1~2 ) ヶ月の血糖値の平均値を反映しています。 低タンパク血症・高窒素血症・低アルブミン血症・高脂血症・溶血 → 血糖値とは無関係にフルクトサミンを減少させる可能性があります。
結果の利用法
正常血糖値・フルクトサミン濃度正常・HbA1c正常
→ いずれも治療目標ではありません。
血糖値:正常〜やや高め・尿糖がわずかに出ている・一日を通してやや高血糖
→ フルクトサミンやHbA1cの値が正常範囲の場合は、その期間中に血糖値が 低めの時間があったことを示唆しています。
フルクトサミンとHbA1cは血糖値コントロールの単一のモニター項目に してはいけないとされています。
→ 必ずオーナーの見解・臨床症状・体重・血糖値と合わせて解釈して行きます。
血糖モニター
尿糖と尿ケトンのモニターは有用な情報になりえます。
ほとんどのDMの患者はある程度の尿糖が常に出ていて時々陰性になります。
尿糖が常に陰性:インスリンの過量投与 or 糖尿病のコントロールがとてもうまくいっている。
尿糖のモニターによってインスリン用量の決定をするべきではありません。 → インスリンの過量投与になりえます。
+インスリンによる低血糖のリスクをあげます。
ランダムに測定された血糖値
血糖値の単回測定はあまり有用ではないことがあります。
インスリンの投与前後で血糖値が180~250mg/dLであれば良好にコントロール されている指標になります。
Portable Blood Glucose Meters ( PBGM )
治療導入初期や長期管理に入りたての頃
:DMの症状が続いていたり、症状が再発したり、フルクトサミン濃度が高い → この状況では血糖値の単回測定は避けるべきです。
連続した血糖値の測定はインスリン投与量の調節に有用な情報になります。 多くのPBGMは一般的な検査機器よりも低めの血糖値検査結果になります。
→ Alpha TRAK PBDMはイヌやネコでより正確に測定できるように設計されています。
+0.3μlの血液で充分量20~750mg/dlの間で測定可能
( ヘマトクリット30%以下や貧血傾向では正確性が低くなる )
血糖曲線とインスリン容量調節
プロトコール
朝イチで来院してもらって一日を通して1~2時間毎に血糖値測定 → インスリン投与直前に開始して次のインスリンの投与直前まで続けます。 *院内で食事しない場合は自宅で食事・インスリン投与をした直後に来院 してもらいます。
血糖曲線の解釈
・インスリンが効果的に血糖値を下げているか
・血糖値の底値はいくつか
・インスリンの効果のピーク
・インスリンの効果の持続期間
・血糖値の最高と最低の差
→ これらを確認するために実施する
良好にコントロールされている血糖値は80~250-300mg/dlを維持しています
底値が低い場合
→ インスリンの過剰投与・インスリン作用のオーバーラップ
食事していない時間の延長・ストレスのかかる運動の可能性が考えられます。
底値が160mg/dl以上の場合
→ インスリン用量の不足・インスリン抵抗性・オーナーの技術的問題 が考えられます。
効果の持続期間
持続期間:注射から底値を迎え血糖値が250mg/dlを超えるまでをいいます。 この期間が…
・8時間以内の場合DMに伴う症状が出現する場合
・14時間以上の場合低血糖のリスクが上昇する場合
→ インスリンの製剤を変更する必要があるかもしれないことを示唆します。
再現性
日々の血糖値やDMそのものは常に一定ということはほとんどありません。
様々な因子が日々の血糖曲線に影響を与えます。
・シリンジに吸われたインスリンの量
・注射後に吸収されたインスリンの量
・インスリン同士の相互作用
・食事
・運動
・興奮
・併発疾患の存在
・空腹
・インスリンに相反するホルモンの存在:
グルカゴン・アドレナリン ・コルチゾール・成長ホルモン
→ 日々の中で血糖曲線が異なることは一般的なことです。
インスリン用量を変更する場合10~25%以上の割合で変更しません。
低血糖が確認されない限り5~7日以上の間隔を開けて用量の調節をします。
自宅のモニター
オーナーの方は自宅で血糖値を測定できるようになるといいです。 週に1回体重測定をします。
毛細血管からの採血:耳介内側・口唇の内側の粘膜・肉球
治療開始して3~4週間後のオーナーがDMに慣れて来た頃に開始します。
自宅で血糖曲線が作れるようになります。
→ 食事の直前+食後2時間毎 ( これ以上の頻度は不要 )
獣医師に相談なしに用量を変更した場合
→ DMのコントールがうまくいかなくなる・オーバードーズのリスク増加 ・混乱・落胆の原因
Continuous Glucose Monitoring System ( CGMS:継続血糖モニターシステム )
採血を繰り返すことなく血糖モニターが可能になります。
間質液中グルコースモニター≒血糖値
Freestle Libre:小さい円形・とりかえ可能・14日間まで可能
毎分測定・15分毎のデータストック
過去8時間の情報を表示+現在の間質液中のグルコースと
傾向グラフ
ほとんど痛みを感じない
将来的には180日分のデータが使えるようになるものが登場する予定です。
臨床症状の継続 or 再発
概要 ( Overview )
臨床症状の継続 or 再発はDMの患者ではよく見る現象です。
PU / PDの再発はいつでも見られます。
:インスリン投与の手技の問題
その患者に合っていないインスリンの使用
インスリンの用量 or 投与頻度の問題
インスリンの効きが悪い:炎症・感染・腫瘍・内分泌疾患の存在
手技の問題
インスリンの扱い or 注射の間違い
:混和の準備の失敗
不適切な希釈液の使用
加温 or 冷凍されたインスリンの使用
使用期限切れ
間違った注射法 ( シリンジ・技術 )
これらいずれかに問題がありそうならオーナーに目の前で注射してもらいます
インスリンの用量の不足
多くのイヌが1 U/kg 以下の用量で12時間毎でよくコントロールできる 1 U/kg よりもかなり少なくインスリン投与している場合は血糖コントロールが 不良の可能性が高いです。
→ この場合10~25%ずつ少しずつ用量を増やしていく
予測される血糖値の変動
健全な個体では日内 or 日毎の血糖値の変動はあまりありません。よくコントロールされたDMの患者でも日内 or 日毎の血糖値の変動はよく観察されます。
食事・インスリン・生活環境・モニタリングが一定でもこれは起こります。
血糖コントロールの変動を評価するゴールドスタンダードは今のところ確立 されていません。
血糖値の変動が大きいイヌは血糖コントロール不良を意味します。
→ これがある場合はその原因を見つけ対策を講じる必要があります。
もし原因が見当たらない場合はインスリンを変えてみます。
リバウンド高血糖 ( ソモギー高血糖 )
ソモギー効果:低血糖時にインスリンと相互作用おあるホルモンの過剰分泌に よる血糖値のリバウンドと定義されています。
( グルカゴンやアドレナリンが関与します )
最近の研究ではイヌはインスリンにより引き起こされた低血糖時には血液中の グルカゴンの濃度は上昇していなかったという報告があります。 +血液中のアドレナリンの濃度はむしろ健全なイヌよりも低かった。
→ ソモギー効果の定義とは逆に減少が起こっていることになります。
このソモギー効果は血糖値の変動の原因の一部と考えられている( 原因の一部 )
インスリンの短い効果持続時間
一部のイヌにおいてはインスリンの効果の持続時間は8時間以下である。 → 尿糖が陽性になる時間が長くなる:PU / PDの症状で気づかれる 対処法:より長く効果の持続するインスリンに変更する
インスリンの効果の延長
インスリンの効果が12時間以上続く場合と定義される
→ 12時間毎の投与では低血糖のリスクになります。
これはインスリン投与後の血糖値の底値が10時間以上経ってから現れる ことで気づかれます。
対処法:12時間毎 → 24時間毎へ変更します。
抗インスリン抗体
イヌで使われるインスリン製剤はヒトのインスリンです。
→ 抗インスリン抗体の報告はありますが一般的ではありません。
インスリン抵抗性を起こす併発疾患
ほとんどのDMのイヌでは1 U/kg 以下12時間毎のインスリンで良好にコントロールできます。
もし、これ以上の用量が必要な場合はまずインスリン投与の技術的問題や効果の持続時間が8時間以下ではないことを確認します。
→ 併発疾患を検討します。
”インスリン抵抗性” を定義する用量はまだ決まっていません。
インスリン抵抗性を疑うとされる条件
:・1.5 U/kg 以上12時間毎の投与でも血糖コントロールがうまくいかない
・血糖値300mg/dl 以下を維持するのに1.5 U/kg 以上が必要なとき
・血糖コントロールが一時的で継続的にインスリン用量の調節が必要なときインスリン抵抗性を起こしうる病態
:・全ての炎症・感染・腫瘍・内分泌疾患・肥満
・様々な薬剤 ( プレドニゾロン、プロジェステロン)
→ よく見るインスリン抵抗性に関連する疾患
:・グルココルチコイドの投与・発情期・甲状腺機能低下症・慢性膵炎 ・慢性腎臓病・感染・腫瘍・高脂血症・重度肥満・クッシング症候群 ( 感染で最も一般的なのは歯肉炎と膀胱炎 )
他の一般的ではないインスリン抵抗性に関与する疾患
:・膵外分泌不全・心疾患・肝不全・グルカゴノーマ・褐色細胞腫
→DM診断時にこれらの疾患が併発していないことを確認することが大切 :CBC、血液生化学検査、尿検査、尿培養検査、腹部超音波検査、 胸部X線検査 を検討する
( + 低容量デキサメサゾン抑制試験、血中プロジェステロン測定、 甲状腺機能検査、イヌ膵特異的リパーゼ測定: cPLI、TLI )
DMの長期的な問題
低血糖
致死的なことはほとんどないが低血糖はDMの長期管理では一般的な問題である
・インスリン用量のお大きな増加
・治療に伴うインスリン感受性の急な上昇
・不注意によるインスリンの過剰投与
・インスリン効果の延長によるインスリン効果の過度なオーバーラップ
・過度な運動
・食欲不振にも関わらずいつもの量と同じインスリンを投与したこと → これらは低血糖を起こしうる要因になります。
症状:元気消失 ( 沈鬱 )、虚弱、食欲増加
→進行すると…けいれん、昏睡、死亡が起こりえます。
口腔粘膜にグルコースを投与 → 回復したらすぐに食事をさせる → インスリン用量変更を検討
眼科疾患
白内障はDMの長期的管理において最も一般的な問題である14%のDMのイヌが診断時に白内障になっている
→ 60日後25%、170日後50%、370日後70%、470日後80%が白内障になる
一旦発症すると不可逆的で急激に進行してくる
80~90%のイヌがレンズの取り換えで視力回復するとされています。
神経障害
発症率は不明だが、症状として現れない程度の神経障害は最も一般的 → DM と診断されてから5年あるいはそれ以上経ってから、
虚弱・筋萎縮・過敏症、筋緊張低下に気づくこともあります。
:いずれも抹消神経障害によるものです。
腎障害
ヒトで見られるような糖尿病性腎症はあまりなく、もし慢性腎臓病と診断したら、それは糖尿病とは別件で発症した可能性が高いです。
予後
・オーナーの治療へのコミットメント
・血糖コントロールの容易さ
・併発疾患の治癒の可否
・DMに併発する長期管理の問題を避けること
→これらに依存します。
最初の6ヶ月で比較的高い致死率となるとされています。
:ケトアシドーシス、膵炎、感染 によるものが多いです。
→ 最初の6ヶ月を過ぎてよく血糖がコントロールされている場合は DMのないイヌとほとんど同じ平均寿命が得られるとされています
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