木場駅の動物病院なら、木場パークサイド動物病院

電話
Web予約

コラム

コラム column

慢性腸症について①

こんにちは。

木場駅・東陽町駅が最寄りの「木場パークサイド動物病院」です。

 

慢性腸症とは

 

嘔吐、下痢、食欲不振などの消化器症状が2-3週間以上続き、内分泌疾患などの消化管外疾患や腫瘍、感染症(主に寄生虫)、異物、腸重積といった疾患がないことが確認されているものを慢性腸症と言います。

 

つまり、慢性腸症とは病名ではなく病態の名前です。犬・猫共に認められ、猫ではこれまでIBDと呼ばれていたものが現在は慢性腸症に該当します。
慢性腸症はさらに食事反応性腸症(Food Responsive Enteritis: FRE)、抗菌薬反応性腸症(Antibiotics Responsive Enteritis: ARE)、免疫抑制剤またはステロイド反応性腸症(Immunosuppressant Responsive Enteritis: IRE/ Steroid Responsive Enteritis: SRE)に分類され、その割合はFRE:66%、ARE(Dysbiosis):11%、IRE/SRE:23%と報告されています*1。疾患名の通り、それぞれ食事、抗菌薬、免疫抑制剤/ステロイドによる治療で症状が改善するものを指します。
これらは単独で発症している事もあれば、複数が絡み合って症状を引き起こしている事もあります。

 

図1 慢性腸症のイメージ図

 

FRE、ARE、IRE/SREの病態 *2

 

FRE:食事反応性腸症

 

FREの病態としては食物不耐症食物アレルギーの2つが考えられています。これらをまとめて食物有害反応と呼びます。

 

食物不耐症とは、食物・食品添加物などに対する非免疫性の異常反応が消化管で生じることを言い、異常反応を引き起こす可能性があるものとしては、食品の毒素・腐敗、微生物による汚染、栄養素の過剰摂取、薬物、食品の物理的特性などがあります。診断は食事の変更による臨床症状の改善や毒素などの摂取歴を聴取する事によって行われます。

 

食物アレルギーは、食事成分(主にタンパク質)に対する免疫性の反応と定義されていて、そのメカニズムとしては免疫系への食物抗原の提示異常などがあげられます。確定診断方法は低アレルギー食の給与(除去食試験)によって症状が改善する事と、さらにその後に前に食べていた食事を敢えて給与し、症状が繰り返すかを確認する事で行います。

 

ARE:抗菌薬反応性腸症

 

AREは、抗菌薬によって症状が改善し、中止すると症状が再発することが知られています。その病態としてDysbiosis*が関係していると考えられています。Dysbiosisは急性消化器症状や慢性消化器症状の症例で認められることがあり、慢性腸症では消化管の炎症を引き起こす要因の一つとして挙げられています。

 

発症率は高くありませんが、抗菌薬の投与直後から消化器症状が出た場合は鑑別診断の優先順位は高くなります。
*Dysbiosisとは腸内細菌の数や多様性が変化している状態と定義される

 

IRE/SRE:免疫抑制剤またはステロイド反応性腸症

 

詳しい病因はわかっていませんが、遺伝的要素と環境要素(特に腸内細菌叢)の相互作用により発症する多因子疾患と考えられています。遺伝的要素の一つとして、消化管上皮細胞に存在する抗原認識受容体であるToll様受容体(TLR)4,5の発現がジャーマンシェパードのIBD症例では健常個体と異なる事がわかっています。

 

TLRは抗原を認識し、そのシグナルをインターフェロンやインターロイキンを産生する免疫細胞へ伝える働きを担っています。そのシグナルがきっかけとなり正常な免疫応答が生じるのですが、IBD症例ではそのシグナル異常により、消化管粘膜に炎症が生じてしまうと考えられています。

 

IRE/SREは自己免疫疾患と混同されがちな疾患ですが、自己免疫疾患とは正常な免疫システムが破綻し、自己に対して過剰な免疫応答を引き起こしてしまう状態でありIRE/SREは免疫応答が正常に機能しない状態なので、自己免疫疾患とは異なる事に注意しなければなりません。

 

動物病院を受診するタイミング

 

軽い下痢や嘔吐などでも2-3週間持続する場合は動物病院への受診が推奨されます。また、毎日ではなくても嘔吐や下痢を繰り返す場合や、症状が体重減少や食欲不振のみでも慢性腸症の可能性がありますので、その場合も動物病院を受診する事が推奨されます。

 

今回は慢性腸症とは何かについて解説しました。次回の慢性腸症 後半では診断方法や治療について解説していきます。

 

*1, Volkmann M, et al. Chronic Diarrhea in Dogs – Retrospective Study in 136 Cases. J Vet Intern Med. 2017 Jul;31(4):1043-1055.
*2, Text of veterinary internal medicine 9th edition